実際に検索サイトの“裏側”で動くシステムの提供事業者を調べていくと、意外なことが判明する。現在、グーグル製エンジンを採用している検索サイトにNTT系のgoo、NEC系のビッグローブがあり、ヤフー製エンジンを採用しているサイトには楽天のインフォシークやニフティ、エキサイトなどがある。これらもすべてグーグル製エンジンに切り替わることになる。
合算していくと、国内の検索システムの本当のシェアはヤフージャパンとグーグルで96.4%になり、限りなく100%に近づく。その他、自前のエンジンを使うマイクロソフト、韓国製エンジンを使うライブドアと中国製エンジンを使うバイドゥを足しても4%に満たない。事実上、独占状態になるのである。
その一方で、2段階のシステム統合が着々と進むことに懸念を表明する電子商取引サイトの楽天は、「競争が起こらなくなることで、個人情報などの“情報の独占”が起こりかねない。すべての情報がグーグルに行ってしまう。非常に危険な状態だ」(関聡司執行役員)と危機感を露にする。
さらには、10年7月にグーグルは、米旅行業界の価格決定で力を持つ専門サイトの買収を発表した。米司法省は現在、オンライン旅行市場に与える影響を調査中だが、このようにグーグルが情報を独占して垂直統合を進めれば、既存の業界は吹っ飛ぶ可能性がある。
同じように、ヤフー・グーグル提携問題に難色を示し、世界規模で反対の論陣を張っているマイクロソフトは、かつて反トラスト法違反で米司法省から提訴されて会社を2分割されそうになったり、欧州連合の欧州委員会から04年と08年の2度にわたって「基本ソフト・ウィンドウズの支配的地位を濫用している」などと数千億円単位の制裁金を科されたりした苦い過去がある。
日本法人のある幹部は、匿名を条件に「私たちに適用された独禁法は、ほかにも適用されるべきだ」と心情を明かす。要するに、独禁法ではさんざんな目に遭ったマイクロソフトは、グーグルだけが“なんでもあり”の野放し状態を続けるのが許せないのである。
“提携反対派”には「グーグルは誰でも参加できるオープンなネット環境と謳うが、グーグルだけで完結するクローズドな世界の構築を目指している」(大手広告代理店の幹部)という脅威論も根深い。
英国に事務局を置くICOMP(Initiative for a Competitive Online Marketplace)は、将来的にネット上で起こりうる諸問題を解決するための提言を行う国際的な民間団体として、2008年に設立された。特定分野の業界団体ではなく、ネット上のサービス事業者が組織横断的に連携する産業団体であり、米マイクロソフトなど15社のグローバル企業が中心になって立ち上げた。
ICOMPには、過去にグーグルが、ドイツ、フランス、イタリアなどで、独占的な地位を利用して検索順位を操作したり、特定のアカウントを削除したりした事例が報告されている。私たちはこれからも啓蒙活動を続けていく。(談)